ワライナキ

松野莉奈さんモデルの小説書いてます(こんな主演ドラマ見たいなと!)

EVERYTHING Chpter1:Takuya and Rina 1-1

目を閉じて、深く息を吸って、吐き出しながら目を開けると、おれはマイクスタンドを握り締めた。

 四方を囲む面々。ベースのたから、ギターのシゲ、ドラムスのまさやんを見やると、あきらは片手を上げて「ヘイ!」と笑い、シゲはこどもの頃から変わらずに静かに見据えて、またやんは力強く頷いてスティックをクロスさせると、カウントを始める。

 分厚くて尖って、でも優しくて懐かしいような激しい音の洪水の中、おれは初めて自分として書いた詞を声に乗せた。

 莉奈―これが、君に渡せなかったおれからの、最初で最後の、永遠のラヴレターだよ。

 

 

Chpter1:Takuya and Rina

「たくちゃーん拓也ー、しげちゃん来てくれたわよーっ」

 ちっ、かーちゃん、びっくりすんだろ!?せっかくいーい感じでヒネってたのにさ…

「…へーい、今行く」

 鏡の前でせっかくワックスでキマりかけてた髪を両手で掻きむしってぐしゃぐしゃにすると、おれは目をひん向き、中指を立てた。

 部屋を出るとせっまい廊下でかーちゃんがシゲにごめんねえ~と謝ってて、シゲはいえいえとやっている。

「シゲ、おはよ」

「おはよう、拓也」

 おお、中学は学ランだったから高校ではネクタイがなんかパンクみたいで嬉しかったんだけど、シゲでけえしクールだし、ネクタイ似合ってんなー。

「ほら、この子はちゃんと謝んなさいっ!たくっ入学式早々…ってキャー何よっその頭っ!?」

「…あ、おばちゃん、いいっすよ、それ見越して早く来てるし…」

「そうお?おばちゃんもね、しげちゃん一緒で安心してるのよー」

 うちのかーちゃんはシゲが大好きだ。幼稚園から同じで家もずーっと同じこの古いマンションで、ガキの頃からひょろっとデカかったシゲはそのままクラス一の長身キープで今や186cmもある。それにちょっと外人みたいな顔で前には出たがらないけど、しゃべると結構声が可愛くって、色男ってやつだ。

「…何?」

「い、いやー、もちっと、そのネクタイ、緩めたらどうかなって」

「今日入学式だよ。いきなり目つけられるよ」

 ずこっ。黙ってるとちょっと怖そうなんだけど、しゃべるとたっかい声でずっこける。オイオイ…自由な校風で芸能活動してるやつや有名人の子供もいる一方、東大合格者も出してるつかみどころのなくっておもしろい学校って探してきたのシゲじゃん。そんな真面目に制服着てる方がレアじゃないのか…

 惜しいよな、シゲ。せっかくの目力、そんな前髪伸ばしてちゃわかんないぜ。背が高い割りに背筋伸ばして歩くシゲの背中を見ながら、ぷぷっと小さく笑っていると、ふわっともわっと春特有のムズムズした空気が僕の周りを回る。

 春ってあったかいんだか、寒いんだかわからないうちに終わってる気がして、昔からあまり好きじゃないな。

 学校か…今度はどんなことが待ってるんだろう。聖域か戦場か?

 正体の見えない春のムズムズもわもわに、おれは目を見据える。もうたっぷり眠ったんだ。今度は逃げるもんか。

「拓也」

 そんなハードボイルドに所詮15歳は長く続けられず、指で鼻をこすっていると、いつの間にかシゲが振り向いていて声をかけられた。

「これからの学校じゃ、おまえなんて大した個性じゃない、よ」

「……」

 むっかー!なんだよ、それ!?私服ポロシャツインしてるやつに言われたかねーよ!!

「シゲ…それはそれで、なんかムカつくなぁ…。特に“よ”の間、なんだよ…」

 髪をかき上げて歯を見せて笑う。そんな邪魔なら切れよ!

「ほら、行くよ」

「どうせなら競争しようぜ!」

「受けて立つよ!」

 そうしておれらは全速力で駆け出した。住宅街を商店街を抜け、とうとう駅まで追い越した。本来なら自転車通学のところ、入学式だから様子見で電車で行こうと言ってたのに、何て無謀なことを始めてしまったんだと後悔したけど、もう止められない。

 汗と苦しさで視界がゆらゆらしだした頃、校門とわらわらと向かっていく人たちが見えた。や、やった、あともう少し…シゲも同じように校門を発見して髪をかき上げた隙におれは最後の力を振り絞って踏み出した。よし!いける。この勝負、おれの勝ち…

「おおおおおーきったねえぞ!シゲっ!」

 ゴールテープ代わりに校門タッチしたと思った瞬間、シゲが思いっきり腰を折り曲げてヤツの頭の方が校門の中ににゅっと入り込んでいた…

「えへへへ。こういうのは知恵使った方が勝ちだよ。全身駆使だよ」

 ムカつく…さっきまでなまはげみたいに走ってたくせによ。

「おー、青春だなー新入生」

 低く乾いた声がして目を向けると、うわチンピラ幹部みたい、先生かよ、これで?な中肉中背だけど只者じゃないオーラばんばんなおっさんがやる気なさげに手を叩いて笑っていた。

「…おはようございま、す」

「おう、おはよって、でっかいなー!」

 シゲは息を弾ませながらも律義に挨拶した。チンピラ幹部がシゲを見てびびって目を丸くした。

アウトレイジみたい」

「あー?だーれがアウトレイジだって?」

 やばっ思わず心の声が出てしまった。両手で口を塞ぐが時すでに遅し。

「ふっ。頭もまるっこいしちんまりしててなんか可愛いなーピッカピカの1年生」

 チンピラ幹部先生がおれのマッシュルームベースで毛先は遊ばせた髪をぐしゃぐしゃにポンポンとやった。なんか、腫れ物に触るようだった中学の先生らとは違う。

「ふきこっちゃん、早速新入生いじりー?」

「おー、だってよ、こいつら駆けっこ競争してきたんだぜ?すげー漫画みたいな青春、俺初めて見たよ」

 校門をくぐってく先輩らに声をかけられて返した言葉に、周りにいた人らが声を上げて笑い出した。そしておれらにも視線が注がれる。

「えー男の子だよね?超目がパッチリしてて可愛い」

「うわ、何センチあんの!?超デカくない?バスケ?バレーやってる?」

 先輩ら、なんか大人っぽくてこなれてて、みんなかっこいいな。耳に届くコメントに照れくさくなりながらも羨望を感じる。

「おーら、青春二人組、早く講堂行けよー。その前に掲示板でクラス確認してけ」

 チンピラ幹部先生のおかげで、中学の頃はくぐろうとすると吐き気が襲ってきた校門をするっとくぐっていた。

「拓也、急ぐよ」

「あー、うん」

 シゲの後を追いながらも、なんとなく振り返ると、チンピラ幹部先生と目が合った。軽く頭を下げると、オールバック、ひげ、色付きメガネ、ピンストライプスーツのその人は、唯一信じてる大人・かーちゃんとシゲのとーちゃんのように、優しくちょっと悪そうに笑って親指を立てた。

 

 クラスは2つ。きっとシゲとは別れるだろう。ドキドキしながら自分の名前を探す。

「拓也、同じA組だね。さ、行こ」

 シゲがさっさと発見して、おれなんかうっわーすっごくない!?ってじわわって感動したのに、それだけ?ってもうまたなまはげみたいに走り出した。

 でも、なんか、楽しくなってきた。中学の頃なんてさ、バカみたいにどこ行くにも並ばされたのに、高校んなったらいきなり講堂集合だもんな。それだけでぐっと大人になった気がする。

 講堂に着くと、扉の前に待機してた先生に前の席が新入生でクラスのプレートがあるからそこまで行って、出席番号順に名前の書かれたしおりが置いてるからそこへ座ってと言われた。

 重い扉の中はすでに埋まっていた。うわーやべーと小走りで進むと、またいち早く席を発見したシゲが振り返り「拓也、そこだから。俺前だからまた後でね」と背を折り曲げながら席へと着いた。

 おれも「あー、ごめん」って言いながら辿り着くと、ようやく落ち着いた。

「な、よろしく。俺、渡利だからタリって呼ばれてる。俺の前だからやがつく名字っしょ?」

 無防備なところに声をかけられてビクッと肩を上げつつ声の方へ目を向けると、ロン毛カチューシャで毛先が金髪男子がたぶん本人シブく決めてるつもりなんだろうな、左の口端を上げて笑っていた。先に来てたんだよね?しおり見たんじゃねえの?

「…残念。実は羅生門なんだ、おれ」

 そう返すと、自信満々のタリくんはみるみる眉毛が下がり、ぽかんと口が開いた。

「ごめんごめん。うそうそ。らの名字他に思い浮かばなくってさ。本当は谷中。お見事!」

「マジ!?やった!でも、びびったぜ。マジらしょーもんかよってさ!なんて呼ばれてんの?服好きっしょ?着こなしヤバい」

「タリこそこだわり感じる。下の名前は拓也。好きに呼んでいいぜ」

「お、マジ!?じゃあーヤナタクって呼んじゃおっかなー。今日からよろしく、ヤナタク!」

「こちらこそ、タリ!」

 そう言い合うとおれらは拳を突き合わせた。

「それでは、これから入学式を始めます」

 タリくんとひそひそながらも笑い合ってると、マイクの電源が入り、壇上に学園長が立った。う、うわ、さっきの校門にいた先生より更にわっるそうって言うか、どうみてもボスだろ…あ、かーちゃんとテレビで観たチャララ~ってなんだっけ?ゴッドファーザーみたいだ!

「はじめまして、新入生のみなさん。学園長の藤です。今日からよろしく。そして、ようこそ我が校へ!えーっとね、みんなジジイ長話すんじゃないだろうなってうんざりだと思うから、手短にいきます」

 ここでわっと笑い声が上がった。

「みなさんはあと4年後に二十歳の社会的にも証明された大人になるね。こうして見回すと僕らの頃とは違って顔も身体つきももう立派な大人だ。新人類、ロストジェネレーション、ゆとり、さとりと君たち若い人たちを体現する言葉はその時代ごとに色々出てきたけれども、高校は社会に出る前の実質的な最後の子供としての時間です。なので、精一杯日々を楽しんでください。嫌でも大人にならなければならないのだから、この3年間全力で空回りしてボケてください」

 戸惑った空気が流れる。ボケる?何言ってんだって。

「おや?あ、私はまだ大丈夫。私のことじゃないからね。漫才で言うボケですよ。そのために我々教師陣がツッコミ役としているわけです。ま、先生方もたまにはボケるだろうから、その時はツッコんでやってね」

 ここで安心したように笑い声が再び起こった。

「勉学、スポーツ、芸術、友情、そして恋愛も恐れずにどんどん飛び込んでいってほしいです。なあに、校則なんて、常識程度です。そこは君らを信頼してのことです。あ、でも、今はマスコミがうるさいから、本当に気をつけようね。以上、ジジイからでした」

 すげ、先輩たちから学長コールが起こってる…メッシュのような白髪交じりのロン毛オールバック、こわもてで髭、ボスオーラ半端ない学長が笑みを浮かべて手を振りながら壇上を降りていく。なんか、ライヴみたいだ。なんなんだ、この学校は…でも、でも、おれ、ここにこれて、本当に、よかったな…

 そうして式は終わって、退場となりそれぞれ教室へ向かう。ラッシュがいやでタリくんと座ったままでいると、シゲが来た。もう一人連れて。ははっ。

「ちわっす!俺、ヤナタクと早速ダチんなった、渡だからタリって、で、でっけー!?」

「あ、よろしく。俺は拓也と同じ中学で幼馴染の都築重伸。シゲでいいよ」

「お、シゲね!俺はタリね。すっげーなモデルみたい。足も細くてなげー!」

 順応度100%のタリくんにシゲもすっかりなじんでる。で、シゲの後ろにいるのは女子かって一瞬思ったくらい小さくてシゲの胸くらいの背丈で、チョコレイトみたいな茶色の髪で長い前髪をちょろっと結んでる割りには妙に目つきが鋭いやつだ。

「シゲ、そっちは?シゲたちも早速ダチんなったの?」

 やはり突破口を開くのはタリくんだ。おれはルックスからほんわかな明るい系に見られるけど、結構な人見知りで相手がオープンじゃないと安心して自分を出せない面倒臭いタイプなんだ。

「あ、うん。隣の席で方向音痴だって言うから一緒に行こって誘ったんだ」

「よろしく!俺、タリ。なんてーの?」

「…志戸、理樹」

「えっ、シド!?超かっこいいじゃん!シド・ヴィシャスみたいじゃん!!」

 志戸って、バラエティ出まくってる司会とかやってる芸能人のおっちゃんと同じだ。

「…すぐに、わかるだろうから言うけど、親が芸能人。昔からいじめられてて友達なんていなかった」

 女子みたいな、子供みたいなルックスなのに、妙に鋭すぎる目で淡々とやつは言う。あんま動じないシゲもぎょっと目を見開いてる。

「ふーん。東京なんだし芸能人なんて珍しくねーじゃん。それに誰だって色々あんじゃん。全然気にすることねーよ。それに高校んなっていじめなんてだせえからさ。そゆことちゃんと言えるシドすげえよ!!な?超かっこいいからもうシドでいいよなっ!?」

「あ、うん…」

 タリくん、すげえよ…おれは自分に言われたような錯覚を起こしてくらっとした。タリくんはもうシドの肩をバンバン叩いて抱え込むようにしてしゃべりながら歩き出した。

「拓也、おれたちも行くよ」

 シゲがさらっと笑ってタリくんとシドの後を追った。シゲはいつだって大袈裟、恩を着せたりしない。ただずっとおれのそばにいてくれた。

 ちょろっとしんみりした気持ちになってとぽとぽ歩いてると、不意に目が入った。光があふれていたんだ。そこだけ。長くてツヤツヤの黒髪。すらっとシゲのようだと思った。けど、女子だ。ひとりで歩いていた彼女にすぐに他の女子たちが駆け寄っていった。すごい、頭ひとつ抜けてる。女版・シゲ?おれはなぜだか目が離せないでいた。やがて横向きになったその目は笑っていて一本線になっている。おれは男の子なのに女の子みたい、外国の血が入ってるの?と言われてきたまん丸いパッチリした目で羨ましがられてはきたけど、ないものねだりでシュッとした切れ長の目に憧れてる。横顔の彼女はまさにそれだった。

 ボーっと見入ってしまう。そして、彼女たちはA組の教室に入っていった。

「………」

 同じ、クラスだ。君の、名前は?声はどんななの?何を好きなの?おれを見てくれるか?

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