EVERYTHING Chpter1:Takuya and Rina 1-15
だーかーらー 伝えたーいこーとがあるー
絶対わからないよー 私たちのこーとなーんてー
連れてってもらうんじゃなく 連れていくからさっ
おれと莉奈はそれから畳みかけるようにアイアヤカの曲をシングルコレクション状態で二人して大声上げて歌い踊りまくった。
その前に、ハイドさんの曲をもっと聴きたいって言われて、おれが好きな曲をパフォーマンス込みで歌った。
横に並んで縦に身体を揺らしながら、お腹の底から声を出して、最後は背中を合わせてモニターに向けてきめポーズをとると、おれらはパシパシっとハイタッチを交わした。
「ふふっ!にしても、たくたく、すごいっ!ハイドさんだけじゃなくって、アイアヤカも歌えて、しかも振りまでできるなんて!」
莉奈は息を上げながらも笑って驚いては跳ねながら手を叩く。
「あー、いや…アイアヤカ、すごいな…」
さすがにぶっ続けでトバしてたから、フラフラだな…おれはよろろとソファシートへとへたり込んだ。
「あ!たくたく、ドリンク何にする?フリードリンクだからねっ、じゃんじゃん行かないと!!」
すっかり元気を取り戻した莉奈が来た時とは打って変わってテキパキとインターフォンをとる。
「あー、じゃ、今度炭酸いこっかな。ダイエットコーラ」
「はーい!」
元気よくオーダーしてるや。さっきのおれと入れ違いだな。やっぱり、君はそうやって笑ってるのがいちばん素敵だよ。
うーんと伸びをしながら、歌いながら踊るってアイドルって大変なんだな…と思っていた。それからTSUTAYAでアイアヤカの既発アルバム4枚まとめ借りして聴き込んできた甲斐があったなと思った。
「あー!莉奈、クリームソーダかよっ!いいなーおれもフロートにすりゃよかった」
「あっはっはー!アイス食べてもいいよ」
「わ、マジ!?」
あたりまえのように口つけたスプーンをナプキンで拭って貸してくれる。他愛なくこうしてくれるってのは、信頼してくれてるのは嬉しい。でも、おれのこと、男として意識してないことの表れ。
「なあ、莉奈」
「なーにー?」
嬉しそうにバニラアイスをすくい、メロンソーダをすすって、今はチェリーを口に入れようとしている。
「シゲとのこと、協力するから」
「…へ?」
なんのこっちゃ?ってぽかんとしてる。普通有効活用するだろ。
「あいつ、いいやつすぎるくらいいいやつで、ルックスは間違いない。頭も。ま、結構笑いとってやるってドヤってるけどな。とにかく、おれは推すよ」
これを言ったら口元をほころばせながら、ふふふふって笑ったけど、すぐに口元を引き締めて、テーブルへと目線を落とした。
「ありがとう。たくたくが、そう言ってくれるの嬉しいよ。でも、いいんだ」
「え?いいってどういう意味だよ?遠慮すんなよ。青春だろ?シゲとうまくいくようにさ」
「確かに、しげちゃん、人気あって、次々に声かけてくる子たち多くて、正直言って、次はつき合っちゃうのかなって、こわくもあるけど…でもね、しげちゃんには、好きな子と幸せになってほしいな。笑ってて、ほしいなって思うんだ」
そう一言ずつ噛みしめるように言って、伏せていた目を上げると、キラキラって笑った。
「なーんだよ。欲ねーなー。おれなんか、即行コネあったら使うけどな」
「あははは!たくたく、本当に、ありがとね。そう言ってくれるの、すごく嬉しいよ!ね、たくたくこそ、好きな子いないの?それこそ私、協力するよ?」
胸元でこぶし作って頼もしく言う。だったらさ、キスしてくれる?
「んー。おれは、それより今はギターうまくなりたい。それに7人でいるのすっげー楽しいし、だから崩されたくない」
これも本心。それに、好きな子のそばにいたい。笑っててほしい、なら、叶ってるから。
「私もなの!7人が大好きで、ずっと7人でいたい!」
これを聞いて、おれは満足する想いで企んでる笑いを浮かべて、横に握ったこぶしを莉奈へと突き出した。莉奈も笑って、同じように横にこぶしを作って、カチンとおれのに合わせた。
「おっおー。じゃ、また歌おうぜ!次何にする?」
操作パネルを手元に引き寄せて、タッチペンを握った。
「ね、また、たくたくの歌、聴きたい!ハイドさんでも他のでも!」
「え?でも、まだまだアイアヤカ歌えるぜ?楽しいじゃん、あの子らの曲」
「うん。それもしたいんだけど、歌ってるたくたくのこと、描いておきたい。デザイン、浮かんでくる感じなんだ」
そう言う莉奈の目には熱量が増していて、ノートからスケッチ用の小さなノートを取り出した。
「お、おおおおー!じゃ、リクエストにお応えして」
おどけて言いながらも、また新たな顔に姿に、見惚れるように動揺して鼓舞された。好きな子のクリエイター魂に火をつけられたのが、たまらなく嬉しい。今は。
そうしておれは選曲して、ギターを持っているつもりで、今のおれの出せる限りのものを注力して渾身のパフォーマンスをした。
莉奈はおれとノートを交互に見ては夢中でノートに描きつけていた。
「ね、たくたく」
「なあ、莉奈」
その日から、おれと莉奈、二人だけの秘密の月いちミーティング@カラオケルームがスタートした。
「あ、やべ!」
「ヤナタク、どした?」
タリくんとの自主筋トレ同好会が終わり、明日提出の宿題の英語のプリントを机に入れっぱなしにしてきたのに気づいた。
待ってるぜと言うタリくんにもう結構歩いてきちゃってるから、そのまま帰っててと告げ、おれは学校まで引き返した。
「お、あったあった!」
無事に見つけてカバンに入れると、早歩きで昇降口へと向かい、靴を履き替えて近道をしていた時だった。
「…やだ…またぁ?」
「…じゃん」
はっきりとは聞き取れないが、男女と思しき会話の断片がしてきて、おれはびくっとなった。おいおいおい…って、まさか襲ってんじゃないだろうな!?ちょうどここは死角で、結構な密会スポットとなっているからだ。
こそっと校舎の影から覗くと、やっぱりな…だった。しかも、結構激しくキスしていた。え…あれは…宮内?
「…咲蘭ちゃん、もう1回」
「えー。勉くんしつこすぎ…」
相手は、2年の先輩だ。バスケ部で人気ある。でも、宮内の彼氏じゃない。確か、あの先輩も彼女いたんじゃなかったっけ?
宮内は先輩の首に腕を絡ませ、先輩は宮内の腰を抱き寄せてる。今日はじめてはずみで…ってものじゃないってことは二人の慣れた手つきからわかる。
「もー1回したげてもいーけど、絶対に落としてね、せ・ん・ぱ・い」
「ああ!俺、超ストライクだからさ、松野ちゃん」
は?あ?ナニイッテンダ、コイツラ??
「咲蘭ちゃんこそ、あの長身ナイトくん、早くモノにしてくれよ~」
チャラけて笑いやがって。思い出した、ベンベンって呼ばれて爽やかで面倒見いいってバスケ部のやつが言ってたっけ。
“長身ナイトくん”ってシゲのことだろ…人のこと、コマみたいに軽々しく言うなよ…シゲを想って涙流した莉奈をおれは知ってる。知らず知らずのうちにおれは指をぐっと握り締めていた。
「お、やべ!」
「彼女から?」
「そ。じゃ、また、咲蘭ちゃん」
ベンベンは素早く宮内にちゅっとキスすると、パッと身を翻した。おれもやべっと身を隠す。真っ赤がたぎってきて、何するかわかんないとこだった。すぐ横を駆けてくベンベン。おれはきっと彼が走っていった方向を睨みつける。
「ねーえ、隠れてないで、出てきたらー?」
!?気づいてたのか、それでいてあんなこと、あなどれないやつだぜ…ま、おれも受けて立つタイプだし、ぎりっと真っ黒もたぎり出したから、出てやるぜ。
「!?」
宮内は出てきたのがおれだとわかると、一瞬だけ目を丸くしたけど、すぐに本性である挑戦的な据わった目つきになって薄ら笑いを浮かべた。
「へー、谷中くんかー」
「おう」
おれは余計なこと言わず、それっきり黙ってじっと宮内を見つめた。莉奈はおれのこの視線にすごくたじろいだけど、向こうも怯まずに口角を上げて弓形キープして挑発的に笑い浮かべてる。
「あーあ、都築くんと松野さんに言われちゃうかなー」
口火を切ったのは宮内で、下で組んだ手を軸にくるっとスカートを翻して回って見せた。あーあーなんか計算してる感丸出しだよ。地下アイドル?かグラドルかが暴露トークしてたよ。
「しないよ。おれら、人のうわさ話してる時間ないし。そんなことより話題山ほどあるから」
「……」
ふって鼻で笑った。おれは一歩前へと踏み出した。
「だけど、おまえらの好きなようには、させない」
おれは人生初の壁ドンをした。
Chapter1 End. ~Chapter2へつづく