ワライナキ

松野莉奈さんモデルの小説書いてます(こんな主演ドラマ見たいなと!)

EVERYTHING Chpter1:Takuya and Rina 1-9

 それからぱったりとシゲハンターだったB組女子たちはこなくなった。でも、たまに付き添いだった女子がチラチラっと覗いてくる。必ずと言っていいほどおれは目が合った。

 まあ、いいやってスルーしてる。それどこじゃないし。

 「シゲー、なあ、ここなんだけどさ…」

「ん。どれどれ?」

 いよいよテストも迫ってきていて、レアもので放課後の教室には、掃除当番だったシゲとおれの二人だけ。いつもは帰宅部で残ってるやつも帰ってしまっていて、おれは数学の難問を解くのに夢中で休み時間またいで聞いているうちに、一緒に残っていて、掃除中はベランダに出てずーっと解き続けていた。

 放課後の教室独占できるなんて子供の頃の秘密基地っぽくて、わくわくするし、勉強してるんだから慌てて帰ることもないかって帰れーって言われるまでいよっかってシゲと居残りを決め込んでる。

 ベランダに出てる時、ハンドメイド部の部室が目に入るんだ。ちまちまと針と生地に向かい合ってる莉奈が見えて、教科書とノートと格闘しながらも目の端で追っていると、気づいてくれて笑顔で手を振ってくれ、今気づいたってふりしておれも笑って手を振り返した。

 部活終わりとかち合って一緒に帰れたらいいなと淡い期待で、『今シゲと勉強中。教室貸し切り状態』ってかるーくLINEを送ってみたり。

「んっ?あ…!!!」

 そんなこと思い返していると、突如、突破口が見えて、おれは突き進んだ。

「シゲ、こ、こうか!?」

「ん?…そ、そう、解けてるよ、拓也!」

 目で追って、自分のノートを見返したシゲからOKが出た。

「マジ!?おっおー!!おれ、すごい!シゲ、すごい!!」

 がちっとピースがハマった時のこの達成感に爽快感!これだから数学はたまらない。めちゃくちゃハイになって、バシバシっとシゲにハイタッチをしていると、ガラッと扉が開いた。あ、そろそろ帰れコールかな?

「あ、いた!たくたく、都築くん!」

 莉奈だった。シゲと手を合わせたまま嬉しさが込み上げてきて、口元が綻んでいくのがわかるよ。

「部活終わったんだ?」

 カバンを肩にかけて手には弁当箱や裁縫セットが入ったトートバッグを持ってる。ん?あれ、なんだ?四角い、硬そうなの、抱えてる。

「お疲れ!あのさ、それ、何?」

 おれが指差すと、おれの前の席の椅子の背もたれに腰かけていたシゲも上半身を伸ばして覗いた。

「お疲れ様ー!そうそう!これね、中庭でてらさん先生が花壇の模様替えしてていらないからってもらってきたの」

「へえー」

 って言いながらも、莉奈の意図が読めないや。曖昧に笑ってると、莉奈はロッカーの上の空いてるスペースに荷物を置き、その謎の四角いやつを両手で挟んで満面の笑みで言う。

「このレンガね、16cmなんだって!」

 おれもシゲも莉奈の言ってる意味がさっぱりわからないで、首を傾げる。

「都築くん、ちょっとこっちに来てもらってもいいかな?」

 今度は企んでるような笑顔でシゲを呼んだ。シゲは何も言わずに腰を浮かせて立ち上がると、ロッカー前の広いところへ歩を進め、莉奈の向かいに立つ。おれは何が始まるんだろうとわくわくしながら、ぐるりと上半身を回して二人を見やる。

莉奈は静かにレンガを足元に置くと、その上に仁王立ちになった。

「だからね、同じ身長だよ!」

なんだ、そういうことかよ!小学生みたいだなぁと、ぷぷっと僕は吹いた。

「……!!」

莉奈もおれも同じユルいスタンスで笑ってたけど、どうやらシゲは違ったようだ。あいつ、雷光発してる?

「…抜かしたよ」

 おいおい…ずっりーな、背伸びしてるや。

「!追いついた!」

 莉奈も負けじと狭いレンガの上で背伸びをして対抗。あっちも着火したか。

「…天井に、手ついちゃうけど?」

 シゲめ…何ムキんなってんだよ!?シゲはギア入っちゃってダーンって手のひらを開いて天井に押し当てた。

「わっ私も、ついちゃうよ!」

 莉奈も足元をちらっと気にしながらも、天井へと触れた。それに弾かれたシゲを見て、えいやっともう片方の手も伸ばした。

「りょうて…っ!!」

 先攻決めようとした先にシゲは黙って両手で天井を押し上げた。

「ああー!!都築くん、ずるいよっ!!」

「勝負は先に動いたもの勝ちだよ」

 おれはシゲに完全に引いている。あいつ、レディファーストってやつで少しはおまけしてやれよ…莉奈もキッと目尻を上げて力を込めて天井を押し上げ、二人してぎりぎりと額突き合せて頭突きでも始める勢い勃発してる。それにしても、鼻が高い二人だなあ。

「…くっ」

 その時、くしゃみ出そうになったのか、シゲが小さく俯いてぱらっとやつの髪が莉奈の鼻にかかった。

「あぶなっ!!」

 言いながらおれは飛び出していた。二人ともバランスを崩しかけて無我夢中で莉奈の背中を胸に受け止め、莉奈を挟んでシゲも抱え込んだ。

 女の子なんだ、おれらとは違くてやわらかくて、ほのかに甘くっていい匂いだ、なんて感じてもいたけど、ただただ必死だったんだ。

 

「はーい、じゃあ、今くじ引いた場所にそれぞれ移動なー」

 中間テストも終わり、入学式以来、出席番号順で座っていたけど、とうとう初の席替え。莉奈と隣じゃなくなってしまう。はあっと小さく息をつく。今度の席はそれでもぽーとシドが近い。「たくたく、なんだか淋しくなっちゃうよ~。でも、休み時間やお昼休みは今まで通りおしゃべりしようね!」

「おっおおおー。もちろん!」

 すごく後ろ髪引かれまくりだけど、おれは男だ。頼れるって思われてたい。だから笑うんだ。莉奈はじゃあね~と手を振りながら、よいっしょとカバンを持って新しい席へと移動していった。ちなみに、莉奈はいちばん前でシゲが隣だった。厳選なるくじ引きの結果なんだけど、これにはクラス中で大笑いだった。学校一の男女長身コンビがアリーナ最前なんて!と。二人して後ろのやつたちに「ごめん。見えないよねって?」って気を回したけど、後ろのやつらはおもしろがって、「ううん。このままでいーい」となった。

 あれ以来、莉奈がシゲにレンガで勝負挑んだ日、成り行きで後ろから抱きしめたっつーか(シゲ込みで)いやいやお助け隊だ、あの後、声を上げているのはおれだけで、二人は黙ったままだった。シゲと莉奈は天井へと腕を伸ばした姿勢のままでシゲが莉奈の両手をぎゅっと握っていた。

莉奈の髪へと顔を突っ込んでいたおれは足で傾いたレンガが戻っているのを感覚で確認すると、そっと莉奈の背中から顔を離すと、シゲと莉奈が重なり合ったまま固まっていた。

「おいっ、シゲっ!莉奈っ!二人とも大丈夫かっ!?思いっきり頭ごっちんしたんじゃねえのかっ!?」

 僕が覗き込もうとすると、慌てたようにシゲが弾かれ、おれらにサンドイッチされてた莉奈の身体からふって力が抜けた。

「莉奈っ、まだレンガの上だからっ!!」

 慌てて背中を両手で支えるおれと握りしめた手を引っ張るシゲ。

「そうそ、ゆっくりと降りて。おれに寄っかかっていいから、シゲもういいぞ」

 シゲは手を握ったままゆっくりと下ろして、やっと二人の手は離れた。絡まり合った指が解けた途端にシゲはがくんとうなだれた。微かに息も上がっている。それに、珍しく髪バッサをしない。

「まつ、の、さん…その、大丈夫?」

「莉奈、大丈夫かっ!?頭ごっちんしただろ?」

 おれが二の腕をしっかり掴んだまま顔を覗き込むと思いっきりびくんと肩が縮み上がった。

「…う、うん!ごっ、ごめ、すず、きくん、その…あ、たく、たく、あり、がとうっ!ごめんなさいっ!!」

 そう慌てて言うと、レンガから下りてレンガを手に持って駆け出して、出口まで行って荷物を取りに戻ってきて、頭をぺこりと下げて、ダッシュして行ってしまった。

 それ以来またシゲと莉奈は話さなくなった。再びベルリンの壁が憚ってしまっていた。

 そんなタイミングで席隣同士かよ、あの二人…なんて思っていた。シゲは女の子に頭突きしちゃって申し訳ないしか言わなかった。

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