EVERYTHING Chpter1:Takuya and Rina 1-6
「シゲ、小学校の頃からモテてた」
「だろうなー。男から見ててもかっこいいもんな」
「さっきのあれ、絶対告られてるよね」
「うんうん!すっごい漫画みたいだったね~」
「シゲ、つき合うの、かな?」
放課後になっておれらは駅前商店街で買い食いしていた。今はお肉屋さんで揚げたてコロッケを買って駅前広場で頬張り中。
シゲはさっき話に来た女子に一緒に帰ろうと誘われて別行動している。みんなが発言している中、莉奈だけ大人しい。
「りななん、どしたの?さっきっからしゃべんないじゃん」
おれとタリくんの間に座ってるひなたがはじっこにいる莉奈へと首を伸ばす。コロッケにかじりついたまま莉奈はびくんっと肩を縮み上がらせた。
「え、えっえっ?あ、ああ、大丈夫だよっ!コロッケおいしすぎてさあ」
そう言って豪快に笑って更にパクパクと平らげてしまった。
「おっシドちゃんの分も食べちゃうぞー」
隣にいるシドのコロッケを食べる振りをすると、シドが「わーりななん待って!」って慌てて引っ込めてるや。
「あーおいしかったぁ!次はクリームコロッケとメンチカツかな、狙うのは」
いち早く食べ終わって紙袋を小さく畳みながら宣言する。
「お、いいな!俺もメンチ迷ったんだよなー。シゲも連れてきたいしな。また来ようぜ!」
「おーおおおおー。あと、たこ焼きも食いたい」
「ヤナタク、それ、おおーっての癖?結構言ってるよねー」
「うん。なんかさ、ちっちゃい頃から言っちゃうんだよ」
「作曲ヤマタっくんだ~」
ぽーはおれのことをヤマタっくんと呼ぶ。
「たこ焼き!?私も食べたいっ大好きなの!」
一拍遅れて莉奈が反応してきた。はじっこ同士にいる僕らはみょーんと首を伸ばし合ってアイコンタクトを取り合う。また好きなもの知れた。同じで嬉しいや…待てよ、おっちゃん!!
「おっおー♪そだ、シゲの父ちゃんがさ、関西人でさ、たこ焼き器持ってて、よく焼いてくれるんだ」
そう言うと、みんな意外って感じで目と口を控えに開いて驚いていた。
「えージャイアントコーン関西人なんだっ」
「そう。おれら赤ちゃんからのつき合いだからさ、うち本当の父ちゃんずっと転勤でいなかったし、そのかーちゃんとは別れちゃったし、おっちゃんのが父ちゃんって感じで良くしてもらってる。それに、すっげえかっこいいんだ。大きくてガタイいいし、スキンヘッドでさ。ロックなんだ」
「へー!うっわ会ってみてぇ~!!」
「僕も!」
「…へえっ!?う、うちのお父さんもスキンヘッドだよ」
「えええ~すっごい偶然じゃない~!??」
「わ、マジ!?かっつん、さんだよね?」
おれは入学式での会話を思い出していた。
「わあ、覚えててくれたんだ。そう!うちのお父さん、克実だからママとかっつんって呼んでるんだ」
「へーかっつんにも会いたいー!」
「おうおう!シゲの父ちゃんと並んでほしいなっ!にしても、シゲとりななん、いろいろと共通点あるよなー」
「うん。僕も思った。なんか、似てるよね、二人」
あ…またこうチクッときた。タリくんとシドの何気ないやりとりなのに。テンション高くなってた莉奈も動きが止まってる。
「どしたの~りななん?あ、まだ食べ足りない?」
「へ?うっうん!まだまだ入るー」
「しょーがねえな!んじゃ、今度はたこ焼き、1個買ってみんなで回し食いするか!」
「ヤナタク、ジャイアントコーンおっはよー!」
翌朝、おれらが登校すると、ひなたが待ち構えていた。莉奈とぽーもいる。
「あ、おはよう!」
もう昨日のことが聞きたくってうずうずしてるのが思いっきり顔に出てるや。ぽーも控えめだけど、そっと腰の位置で拳握りしめてアイーンみたいな力んだ顔になってる。莉奈はチラっと流し目したきり斜め後ろの後ろ戸あたりを見たまま。いよっ、クールビューティー!
「ねーねー、ジャイアントコーン」
「ん?」
「昨日さ、どうなったの!?」
いよいよ机越しに身を乗り出してきた。昨夜かーちゃんが好きで一緒に観ていた刑事ドラマ思い出すな。
「えっ?」
シゲは席に着くなり早速カバンから教科書とノートを取り出してる。真面目だなぁ。
「何すっとぼけてんの!?ほらー昨日だよっ!一緒に帰ってったじゃん」
「小学校の頃からモテモテだったってヤマタっくんから聞いたよ~すごいねぇ」
ぷぷ。ひなたすげえな。超前のめり。その様におおっと身を引きながらも、ははっと笑ってバッサと髪をかき上げると、穏やかに笑った。
おれは朝にいち早く聞いていて、昨日みんなに“モテた”ってことはだけは話したぞって言ってあった。別に隠すようなことじゃないしいいのにって笑ってたけど、本人不在のところでベラベラしゃべるのも、しゃべられるのも嫌いだ。
「で、つき合うことんなったの?」
女子固唾を飲んでシゲを見守る。そこへ「おっはよーちゃん」ってタリくんとシドが登校してきた。お、いつもより早いな。
「何々?昨日のこと?」
早速察してタリくんがおれらの輪に加わった。昨日不安げにしていたシドは自分の席に着こうとせず、そっと莉奈に寄っていった。
「んー。確かにそう言ってもらったんだけど、まだよくわからないし、俺その前にみんなともっと仲良くしたいから断ったよ」
「なーんだあ…」
「お、そっか。まっだまだこれからだもんな!!」
力んでた分ひなたが思いっきり拍子抜けしている横で、タリくんは痛快そうにガハハハと笑った。
「モテたって言っても、1,2回一緒に帰ったり、日曜に出かけたら、もう自然消滅ってパターンだったから、ちゃんとつき合ったって言えないよ」
そう言ってシゲは苦笑した。そうなのだ。告白されてつき合った数なら10人以上。でも、向こうから来る割りには、いっつもシゲはフラれていた。また全く落ち込みもしなかった。
「ええっ、そうなのっ!?」
「うん。背が高いから目立つだけで物珍しいだけだよ。俺ダサいし、しゃべり出すと止まらないから全然かっこよくないって思われるんだろうね」
どこか他人事のように愉快気に話す。あんなにぎゃいぎゃい事情聴取していたひなたも、さりげなく聞き上手で盛り上げ役のタリくんも、一瞬押し黙った。
「…っんなことない…」
莉奈のブレザーの肘部分をきゅっと握っていたシドがぽそっとつぶやいた。みんな声には出さずに一斉に視線を向けた。
「…そっ、そんなことないよ!シゲは、かっこいいし、優しいし、おもしろいよっ!僕、大好きだよっ!!」
シドが今にも泣きそうな顔で一生懸命に訴えた。その姿にシゲはふっとひどく大人びて笑うと、「ありがとう。俺もシドのこと大好きだよ」と言った。
「そっ、そーだよ!ジャイアントコーン、あんたもっと自信持ちなよっ!!」
「おう!シゲ、超かっこいいぜ!俺にとっては癒し系だぜ」
「うん!ジャイアンくん、いい人だよ~」
そうしてふきこっさんが来て閑話休題となり、午前中は現国で莉奈とこの文体かっこいいね、英語では二人して絶対話せるようになりたいと同じ目標だとわかったので、もう力入れて、数学では「たくたく、やだー」って泣きつく莉奈をなだめ教えてやり、と時が過ぎた。
そうして昼休み。タリくんが決定的な議題をぶっこんできた。
「そいや、みんなさぁ、つき合ってる人とか、いんの?」
「そいや、みんなさぁ、つき合ってる人とか、いんの?」
今日の弁当はおかかとゆかりのおにぎりと塩から揚げに卵焼き、ちくわきゅうりにきんぴら。かーちゃんが最近好きな、旦那さんが死んじゃって、旦那さんの父ちゃんと一緒にまだ暮らしてる女の人が主役でよくごはんシーンが出てくるドラマに影響されたメニュー。
みんなが「すごい豪華!!」と蓋を開けた瞬間ざわめいて画像撮られまくった。かーちゃんに報告しないとな。喜んじゃうだろうなー。
から揚げをあぐってかじって間髪入れずにおにぎりを頬張るこの幸せたまんねぇ…なんて無防備モードだったからむせそうになる。
「へ?何よ、唐突にさ」
ひなたはおなじみのデカ弁当箱いっぱいのチャーハンとしゅうまいの中華弁当。あちらも頬張りながら眉をしかめている。
「や、まだ、そういう話してなかったなーって思ってさ。で、どなの?」
「言い出しっぺのあんたこそどーなのよっ!?」
タリくんは購買パン3個が定番。焼きそばコロッケパンに豪快にかぶりつきながら、ひなたに詰め寄られている。
「そうだ~そうだぁ~」
ぽーは一人前用の丸いお重2段に豆ごはん、卵焼き、焼き鮭、プチトマトでいつも彩りきれいなやつで、シドはお洒落なサンドイッチでフルーツサンドは必ず入ってる。
「え、角煮!?」
オムライスを口に運んでいた莉奈がシゲの開けたアルミの弁当箱にびっくりして思わず声に出してる。
「ん?そう。親父が昨夜っから仕込んでたんだ」
ぺかーって目を見開いてる莉奈にシゲが穏やかに笑い返して箸を取り出してる。
「え、お父さんが?確か、ごはん、都築くん、よく作ってるって…」
「うん、そうなんだけどね。俺は親父の見よう見まねで始めたし、俺は晩ごはんだけで、親父が朝ごはんとお昼担当なんだ」
「そうなんだ」
スプーンを唇にあてたまま莉奈がふむふむと頷いている。初めてじゃないか、あの二人、サシであんなスムースに会話してるのって。
「すごいね、お父さん。味玉、もいい色してる」
「ふふ、そう?松野さんこそ、お父さんプロのシェフなんだよね?そっちの方がすごいよ。フランス料理?」
「ううん、イタリアンなんだ」
「わあ、本格的なパスタやピザが家でも食べれちゃうんだ」
「あはは。たまにね、かっつ、お父さん、も腕奮うけど、基本はママの作る和食ベースなの」
「なるほど。そっか、メリハリあった方がいいもんね。それより、かっつって??」
「あ…聞こえちゃったよね(笑)。お父さん、克実っていうから、ママとかっつんって呼んでるんだ」
すごいな、ラリーになってるや。おれはシドとぽーとしゃべりながらも、しっかりと聞き耳も立てている。シゲはふふふって笑いながら角煮をほぐし、パッと顔を上げて莉奈を見る。
「よかったら、食べる?」
「え?いいの?」
ぱああっと目を輝かせる莉奈。
「うん。こんな大きいの3個もあるし」
「じゃ、じゃあ、私の、サラダもどうかな?エビとアボカドとブロッコリー。嫌いじゃない?」
「好き。俺、魚が好きなんだ。じゃあ、お裾分けっこ、だね」
「うん!」
莉奈はすごくすごく嬉しそうに満面の笑みってやつで大きく頷いて、二人はそれぞれの蓋の上に角煮とサラダを乗せてトレードした。
「そうだ…都築くんのお父さんのことも聞いたよ。ねえ、たくたく!」
交わされてゆく二つの蓋に自分の目がうつろになっていくのがわかる…なんてダウナーセンチメンタルモード激流だぜって思っていたら、ぱきっとした声で君は笑ってておれは呼ばれた。
「うん?」
自分の中ではものすごい疾風怒濤が巻き起こってると言うのに、おれはさらっと返事をするんだ。
「えびフライじゃないけど、たくたくもサラダ食べる?」
「おれもいいの?」
「うん!いっぱいあるしね。都築くんのお父さんお手製の角煮お裾分けしてもらっちゃったんだ!今、お父さんたちの話してたの。昨日聞いた」
そうして自分勝手に悶々としてたのに、あっさりとおれは輪の中に加われていた。んん?って昨日の買い食い会に参加してないポカンとしてるシゲにおれはニッて笑って説明しよう。
「莉奈がたこ焼き好き食いたいって言って、おっちゃんの話したんだよ。スキンヘッドですっげえかっこいいって言ったら、もうみんな会いたいコールだったんだぜ」
「そうそう!昨日ね、みんなで駅前の商店街で買い食いしたんだ」
莉奈がそう補足すると、すぃーっと顔を前に戻して下を向いてぽそっとつぶやいた。
「俺も、一緒に行きたかったな…」
ありゃ、拗ねてるのか?おれと莉奈はすぐさま目を合わせて、ぷぷっと吹いた。
「何で一回限定なんだよ?また行くに決まってんだろ!」
「そうだよーシリーズ化だよ!タリくん、シゲも連れてきたいしなって言ってたよ」
莉奈がシゲの腕にポンっと触れて、ひょいって顔を覗き込んで笑った。
「…ほんと?また行く?」
弱々しく顔と髪を上げると、まるで子供かよ!?って目で訴える。
「行くよっ!全制覇するんだから!ねえ、たくたく?」
「おっおおおー!」
おれらが顔を突き合せて力強く言うと、やっと機嫌が直ったシゲは満足気に歯を見せて笑った。
そうして僕らは弁当を食べるのを再開した。おれの塩から揚げも二人につまんでもらい、シゲのおっちゃん特製角煮と味玉は莉奈と二人で分けっこして、莉奈のオムライスも一口もらった。
おれは莉奈を独り占めしたいって心が狭くなってたけど、いざシゲと莉奈が打ち解けた中にいるのはなんだか心地よかった。それは二人とも、話す時はそれぞれの目を交互に見てくれてるからだ。
「ん、んんんー!お肉やっわらかーい!それに生姜とお醤油がきいていておいしい…」
「うん。さすが、おっちゃんだ」
「ほんと?口に合ったならよかったよ。おばちゃんのから揚げ、味付け新しいね!松野家のエビアボカドサラダとオムライスはお店で食べてるみたいだよ!お母さん、パティシエなんだよね?」
「うん、レストランだよな!」
「ママ、お酒も大好きだからおつまみにも力入れていてお料理自体好きなんだ。で、かっつんもだし、私も気がついたら食いしん坊になっていたよ」
「ああーなるほど…」
おれとシゲも相槌打ちながら、同じこと考えてるや。おっちゃんとかーちゃんの酒豪コンビ…
「わっ、それにたくたくのママの塩から揚げ、これ病みつきになりそう!それに種類もいっぱいで栄養バランスも良さそうな豪華なお弁当だね!」
この前の入学式ごはん会の時もへべれけだったもんなぁーと思い返してると、ほっぺたをぷくーって膨らませて、唇を真ん丸にして、あの一本線の目で笑っている。
「おおーかーちゃんに言ったら喜んじゃうよ。でもこのメニューさ、今かーちゃんがハマってるドラマの影響なんだよ」
「本当?何てドラマなの!?」
タイトルだけでうまそうなのを言おうとしたところで…