EVERYTHING Chpter1:Takuya and Rina 1-5
「もーさっきのりななんにゃ参ったよー」
「あはは、ごめんごめん!」
「必死で走ってるうちにわかんなくなっちゃうよね~」
「そうそう!途中まではあっちがゴール!って思ってるんだけど、いざボールパスされるとパーンって飛んじゃうの」
授業が終わり着替えての帰り道、莉奈たちと鉢合うと、ぶーぶーむくれるひなたの両肩を揉みながらカラカラと謝っていた。
「にしても、ジャイアントコーンの卓球ウケもびっくりこいたよー!りななんとジャイアントコーンに爆笑させられたわー」
ひなたがそう言うと、莉奈の手がぴくっとして止まった。
「よーお!おつかれちゃーん」
おれら男子チームもシゲを囲んで、ふくてん先生命名の『卓球おかんウケ』(手の動きがご飯よそってお茶碗差し出す仕草っぽいとのこと)で盛り上がっていた。
タリくんは前をじゃれ合って歩く3人を見つけると、明るく通る声で片手を上げて寄っていく。
「あ、タリ!あんた大活躍だったじゃん」
「ひなたこそ、いい走りにフォームだったぜ!」
スポーティコンビは称え合うとガツンと拳を突き合せた。
「りななんは惜しかったな!シュートがんがんキメるけど…ぷっ」
「もータリくんそれ言わないでよっ!これでも必死だったんだよー」
吹き出して思い出し笑い入ってるタリくんに莉奈がポカポカやってるや。
「だはは。わりぃわりぃ!いんや、シゲとセットで笑かしてもらったからさ」
「えっ?」
名前の出たシゲが珍しくすぐに反応してその輪の中へ踏み入れた。
「ジャイアントコーン!さっきの何あれ!?超人技じゃん」
「そうそう~ジャンプすごかったね~」
「だよなー。跳躍すっげかっこよかったわ」
「ふふ。そう、かな?」
またバッサと髪かき上げて満更でもなさげに含み笑いしてるや。ドヤシゲめ…なんて思っていたら急にシドがおれの体操着の裾をぎゅっと握った。
「シド?どした?」
「ヤナタク…僕、電池切れ」
そう言うと、フラーとおれ側に傾いた。慌てて受け止めると、莉奈が飛んできた。
「シドちゃん!?あ、たくたーく!イェイ!」
おれを見て手のひらを広げたから、その手に合わせてハイタッチする。
「シドちゃん、大丈夫?」
「うん…疲れた。まともに体育受けたの久しぶりだから」
おれの腕ににじにじ寄りながらむにゃっと言って、おれも莉奈もホッとした。
「なんだよ、びっくりしたー」
「あはは、わかるよ。私も疲れるの嫌いー。そうだ、チョコあるけど食べる?充電しなきゃね」
「うん、ほしい!」
おれにもたれていたシドは現金なものでそれを聞いた途端、ぱああっと顔を上げておれと莉奈の手を引っ張った。
「みんなー、シドちゃん充電するから先行ってるね!あ、チョコほしい人来てねー」
教室に向かいながら莉奈は他のみんなに声をかけていく。ぽーが「わあ、チョコ~」と声を弾ませてる。教室に入ると、僕らに「とってくるからシドちゃんの席で待ってて」と言って、あんなに疲れるのやだーと言ってたのに、軽やかに席まで駆けていってカバンから小さな黒いラメラメのポーチを持って戻ってきた。おれはシドの隣のぽーの席に勝手に座らしてもらってる。
「お待たせぃ!はーい、エネルギー補給しよ!」
「わー!りななん、もらうね!」
「うん!食べよ食べよ。ねえ、たくたく甘いもの嫌いじゃない?よかったら食べて」
「おっおおー。嫌いじゃないよ。じゃ、おれも貰お」
そうして3人して一口サイズのチョコを頬張ってしばしの静寂。太りやすいから気をつけてはいるんだけど、かーちゃんとよく茶飲みするからおやつは好きなんだ。はあー体育の後だからうまいなぁ…それに、スーパーで売っているものだけど、莉奈からのお裾分けだ。
「おいしい…僕、生き返ったよ。ありがと、りななん!」
目を閉じて味わっていたシドが思いっきりいい笑顔で莉奈にお礼を言った。血色も戻ってる。
「ううん、どういたしまして!シドちゃん元気になってよかったよ」
「僕もさ、お菓子持ち歩くようにしてるんだけど、切れちゃっててバッグに入れ忘れてたんだ。明日お返しするね!あれ?こんぶにうめ?そっちは随分渋いね」
ジッパーが空いたポーチから覗く酢こんぶと干し梅のパッケージを見やりシドが笑う。確かに。
「あはは、おかまいなく!ああ、そう!私基本のおやつは酢こんぶと干し梅なんだ。お仕事してた時のためでもあったんだけど、松野家ではあまりお菓子買い置きしないで食べたい時に買うってルールだからさ。でも、体育憂鬱だし、気持ち上げるためとエネルギー補給で今日はねチョコ持ってきたんだ」
「すごいね、さすがプロだね」
シドが目をキラキラさせて感心している。酢こんぶ、干し梅…かーちゃんに買ってきてもらお。
「あはは。でもね、お菓子大好きなんだ。だからね、シドちゃんのおすすめも食べたいな。もうお仕事してないし、縛りないから、みんなで買い食いとかしたいし」
そう言って舌をペロッと出して照れ笑いする。
「うん!そうだ、僕さ、ヤナタクとりななんと洋服見に行きたい」
「お♪いいね、行こ行こ!ね、たくたく?」
シゲの椅子に後ろ手をかけた莉奈に顔を覗き込まれて、おれはビクッとなる。シド、超名案!
「おー盛り上がってんじゃーん」
「りななーん、チョコちょーだい!」
お、戻ってきたな。ひなたたちに莉奈がチョコを進めてると、手持無沙汰気味に髪をいじりながら、自分の席にいる莉奈の隣にシゲが立った。
「いっただきい!」
「もーらい」
「りななん、もらうね~」
チョコの箱にひなた、タリくん、ぽーの手が伸びて、残るあと一人は…と莉奈が頭を巡らせたのだろう、振り向いて隣に立つシゲを見て、奴の席前を占拠してるのに気づいて慌てた。
「ごっ、ごめんね!すぐどくからっ」
「…あ、いいよいいよ」
「…そうだ、都築くんも、チョコ嫌いじゃなかったら、どうぞ」
やっぱりまだ距離のある二人の会話。
「うん。ありがとう。好きだから、いただきます」
シゲもお菓子が大好きでごはん同様よく食べるのに羨ましいくらいに太らない!莉奈が進めたらぎこちないやりとりから、ふーっと柔らかく笑って嬉しそうに手を伸ばして口に入れた。
「ジャイアンく~ん、すっごくいい顔してるねぇ~」
「うん!お菓子食べると幸せになるよ」
ぽーが親指と人差し指を立てた両手を上下させながら声をかけると、チョコを頬張ったまま嬉しそうに目を細めて笑ってしみじみ言う。その様を見て、みんなつられて笑っていく。
「シゲ、可愛いなー!やっべ、ときめいちったじゃん」
「やだータリBLじゃん!??」
「だははは。かもな!」
ひなたがタリくんに小突いてる横でポーチから覗く渋い包みにシゲが気づいた。
「酢こんぶと梅?」
「う、うん!こっちもほしい?よかったら」
莉奈がシゲと会話が続くことに緊張がちに対応してるのが伝わる。莉奈がポーチから一個ずつ包装されたちっちゃい干し梅を取り出して、はにかんだ笑顔でシゲへと伸ばすと、シゲは大きな手のひらを広げて「ありがとう。後で食べるね」と受け取った。
莉奈は眩しげに目を細めるもシゲへと視線を向けたままでいる。そして、小さく口を開いた。
「あーいたいた。あの人だよね?」
「おーい、シゲー!お呼び出しー」
「ん?」
シゲと一緒に俺らも声の方へ目を向けると、入り口にはたぶん隣のB組の女子が2人。シゲが振り向いたのを確認すると、「都築くん、ちょっといいかなー?」と手前にいる女子が元気よく声をかけてきた。その後ろにいる女子はそわそわもじもじしている。これは…
この後の展開はもう誰の目にもあきらかであろう。不意に目が合ったタリくんがニヤリと笑う。シゲは変わらぬ調子で「ああ、うん?ちょっと俺行ってくるね」と僕らにことわって彼女らの方へと歩を進めた。近づいていくシゲにB組女子がテンション上がった笑顔になる。反して莉奈はきゅっと口を閉じて無表情になっていった。
「…松野さん、ごちそうさま!」
彼女らと廊下へ出ていくというところで、突如シゲは振り返り勢いよく髪をかき上げると思いっきり笑って莉奈へと放った。