EVERYTHING Chpter1:Takuya and Rina 1-10
「きゃああああ、ヤマタっきゅん、来てくれたのねぇー!!」
「し、しのちゃん、そのきゅんってどうにかなんねえの?」
シドとぽーと一緒にハンドメイド部に赴くと、もう踊り出しそうな勢いでしのちゃんに熱烈歓迎された。シドもぽーもお腹を抱えて笑っている。
「あらぁ、いいじゃないのぉー!きゅんきゅんするんだもの!!」
お手製のお針子さんブレスをつけて両手を重ねてクネクネするしのちゃんに笑いながら、せっかくだからヤマタっきゅんもマスコット作っていきなさいと言われ、みんなと一緒にデザイン画を描くように促された。
莉奈は日直で遅れてくる。あの調子でシゲと作業できるんだろうか?ちょっと心配になるから、戻ってきた時、笑ってもらえるといいなとおれも参戦することにした。
それに他の先輩たちもおれのことを歓迎してくれ、しのちゃん目当てでここに来たり、みんな目的は3年メインの文化祭のファッションショーで本格的にファッション業界目指している人たちでなんだか刺激されてくるんだ。
それに週3だし、タリくんとの自主筋トレ部もできるし、もう入っちゃってもいいかなーとひそかに思ってたりもする。そうだ、意外だったのがタリくんで、てっきりバスケやサッカーに入るのかと思ってたら、あっさりと「俺、帰宅でいーわ。ガキの頃からずーっと学童に世話んなってて、チビどもの面倒見に行ってるからさ。部活はやんねえの」と笑って言い放った。
ひなたに「いっがーい!あんた、いの一番に盛り上がってバリバリの体育会系だと思ってたからさ」と目を真ん丸にして言われ、シドとおれはふむふむと頷いた。
「まあな。でも、スピリッツはバリバリ体育会系よ、俺!ま、週3だからさ、残りは自主練でそこら辺走ったり筋トレするつもりだぜ」と、一瞬遠くを眺めて、すぐにいつものフレンドリーな笑い顔になった。
シドとぽーは配られた紙に早速スケッチを始めてる。二人とも活き活きしてんなぁ。
「なあ、二人は何作んの?」
「私はうちのトースト!」
「僕はシド・ヴィシャスのチャーム作ろうと思うんだ!」
なるほど。ちなみにトーストは例のぽー家の柴犬。ぽー曰く「うちの家み~んなパンが大好きでね、わんこ飼おうって見に行った時、こんがり焼けたトーストみたいないい色だったからトーストにしたの~!」とのことだ。
「ヤマタっくんは~?って、あれあれ?わ、何描いてるの~?」
「え、ええ、これって!?」
ぽーとシドが手元を覗き込んで、おれを見た。
「そ、シドとぽー描いてみた。どうせならみんな描いてみよっかなって」
「わ~!すっごい可愛いね~」
「ヤナタク、イラストの才能あったんだ」
「いやいや、そんなうまくないよ。でも、なんか昔っから描くの好きなんだ」
それから他のみんなも描いて、しのちゃんも覗きに来て、褒められかつアドバイスをもらっていると、莉奈が息を上げながらやってきた。
「失礼しまーす、松野到着です!」
「りななんちゃーん、日直お疲れ様ねー!」
しのちゃんがお手製のスカートの裾を翻してお出迎え。しのちゃん先生ーと手を合わせてきゃっきゃ飛び跳ねてる。あれ?なんか、ハイになってる?てっきりどっと疲れてやってくるものと思ってた。
「りなな~ん、こっちだよ~」
「わわ、どこまで進んだ?あーたくたく!」
「よっ!お疲れ」
おれが片手を上げると、パシンと重ねてくる。そして、シドとぽーの手元をそれぞれ覗き込み、二人にも交互に手を合わせて、「ぽーちゃん、トーストでしょ!?バター乗っけちゃうぞ!」「シドちゃんがシド作っちゃってるー!キュートアーンドソークール!」って一人でトバしまくった。
「あれ?どしたの、みんな?」
いや、莉奈のあまりのハイテンションぶりに、おれら3人ぽかんと彼女を見上げた。
「り、りななんこそ、どうしたの?すっごい浮かれてるよ?」
「なんかいいことあったの~?」
「えっえっ?」
言いながら、交互にぽーとシドを見て、3段落ちでおれを見て、きょとんとする。
「すっごい嬉しそうだ。なんかあったか?」
おれを見た後、思わず笑いがこぼれて、更に目線が落ちる。
「あー、これ、たくたくが描いたのっ?」
「そ、おれ、みんなのことモデルにしてちっちゃいやつ作るんだ」
おれが言うと、あの一本線の目になって、にっこりと笑った。
「りななんのいいことってなーに?僕さっきっから気になってる」
うん、そうだそうだ。じとーっと待つ俺ら3人に観念して、コホンと咳払いすると…
「ママからLINEきてね、今日の晩ごはん、ハンバーグなんだっ!」
へっ?そ、それだけ??おれら3人ずりーってなった。
「ちょ、ちょっと、なにー?その微妙な反応ー?松野家のハンバーグはちょっと違うんだよー!」
「ど、どんななの?」
シドがずっこけったまんまの態勢で聞いてあげてる。
「大葉を敷いてアボカドとトマトを乗せてポン酢をかけるの!」
これを聞いて、おれらはずっこけからしゃんと背筋を伸ばした。
「わ、おっとな~!なんかおしゃれなお店みたいだね~!」
「うんうん!ねえ、僕も真似していい?」
「おれも食べてみたい!大根おろしと万能ねぎ?でポン酢はかーちゃん好きだけどさ、アボカドとトマトは画期的だよなぁ」
口々に言いながら、やばい、なんだか触発されてハンバーグモードになってきている。これでうち帰って焼き魚とかだったらやり切れないな…シゲなら喜ぶんだろうけど。
「松野家のごはんいいなぁ~」
「え、ぽーちゃんのママこそいろんなパン手作りしててすごいじゃん!うちはパンはバリエーションないから、小林家のパンライフ羨ましいよ!」
「僕もパン大好き!」
「おかーさんとママたちがコラボレーションしたらおいしいもの食べられるよね~」
ぽーが何気なく発した言葉に、莉奈がムンってドヤ顔になった。
「明日のお昼にね、言おうと思ってたんだけど、フライングしちゃう。かっつんとママがね、みんなに会いたいって、うちで簡単なパーティやろうって言ってるんだ。ぜひみんなに来てほしいな!よかったらみんなのご両親もどうぞって!」
この発言におれら3人色めきだって小躍りな勢いで腕を振り上げた。
それから、翌日からシゲと莉奈はまた話すようになった。莉奈はシゲのことを“しげちゃん”とかーちゃんと同じく、シゲは莉奈のことを“りななーん”とおっちゃん譲りの関西イントネーションで呼ぶようになった。
みんな松野家パーティに気をとられて盛り上がっていたから、ささいな変化として誰にも突っ込まれずに日常へとすーっと溶け込んでいった。
「だからおれはこうした方がいいと思う」
「いや待てよ、それだとさー」
今は男子は技術工作の授業で班ごとに分かれての作業。タリくんとはまた違うタイプの野球部バリッバリの体育会系のリーダーシップ発揮のやつと真っ向から意見が対立していた。
彼の言ってることもわかるが、それだと後々の構造が…ってさっきから説明してるんだけど、なかなか伝わらずで向こうの熱さに煽られるように徐々にこっちも引けなくなっていた。
タリくんやシドにシゲたちの班は和やかにスムースに進んでそうなのに、おれらの班だけが進行が遅れていた。
「こっから先どうすんだー?とにかく、どっちにすっか早く決めようぜ」
班の他のみんなは対立してるおれらにうんざり気味であきらかにチームワークが乱れていた。
「ヤナタクの言ってっことよくわかんねーし、俺のやり方でやろうぜ」
「ちょっと、待てよ!それじゃ班でやる意味ないじゃんか」
おれはすっかりスルーされて、他のやつらもちらりと気にはしつつ、早く終わらせたいのかそっちへ従ってしまう。なんか一気にやる気失せて、おれは不機嫌にため息をつくと壁にもたれかかった。
どうせ失敗するよ。ふてくされながら腹で毒づいた。
「んだよっ!?ヤナタクって強情だよなっ!!」
え?なんで?はっと気づくと、班のみんなが顔をしかめておれを見ている。
「おいおい、どうした?ここ、さっきから揉めてたよな?谷中、そういう言い方ないぞ」
「……」
先生が来て、注意受けたことでもうおれは何も言えなかった。仕切ってるやつが得意気に先生に話してる。
「…って、あれ?あれれ?」
「ほう。でも、それだとな…」
「だから、ここをこうしたらって」
手こずってるのを見て、俺はその中へと割り入った。。そして読み通りうまくいった。
「おー、やった。進んだじゃん!」
「なるほどなー」
「チッ」
舌打ちされておれとやつは睨み合った。
「はいはい、おまえらいがみ合わない合わない!」
互いに先生を肩を叩かれ、下げられる。
「だからさっきっからおれ、これ言ってたんだよ」
「あの言い方じゃわっかんねーんだよ!」
「聞く耳持たなかったのはそっちだろ」
「マジ、女みたいな顔して強情なヤツだなっ!!」
*
吐き捨てられた言葉がおれの中をえぐって、もう思い出したくない記憶を引きずり出していた。後味が悪いまま授業を終えて、教室に戻る時にタリくんやシドが慰めてフォローしてくれたけど、どうにもおれの心は晴れないままで、ホームルームが終わると黙って中庭へと逃げ込んできた。
「…はぁ。はー…」
もうさっきっからずーっと溜め息ばかりついている。明日は松野家でのパーティなのにさ。
どうしよう。おれ、また嫌われるか?また周りから人がぱーっと消えていくのか?
ぎゅっと目を瞑って抱えた膝にぎゅうぎゅうとこすりつける。
あの中学の時も、同じことを言われた。主犯格だった留学から戻ってきたやつが政治家?金持ちの息子だったからみんな長いものに巻かれろでそっちへついてしまったんだ。